大判例

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大阪高等裁判所 平成5年(う)895号 判決 1994年4月27日

本店所在地

大阪市東成区東今里町一丁目七六番地

日本ペンション株式会社

右代表者代表取締役

深沢登喜雄

本店所在地

大阪市北区天満四丁目一番一五号

(旧本店所在地 大阪市北区天満二丁目二番二一号)

株式会社松下ホーム

(旧商号 株式会社松下興発)

右代表者代表取締役

松下彰良

本籍

大阪市北区天満二丁目六番

住居

同市同区天満二丁目六番三-七一六号 コープ野村天満橋

会社役員

深沢登喜雄

昭和二〇年一二月一二日生

右三名に対する法人税法違反被告事件について、平成五年九月一四日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 西尾精太 出席

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人田中義信作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

論旨は、いずれも原判決の量刑不当を主張するので、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討すると、本件は、被告両会社の業務全般を統括する実質的経営者であった被告人深沢が、両者の顧問税理士と共謀のうえ、両社の法人税申告にあたり、その所得を秘匿し将来の事業資金や個人資産などを確保する目的で、両社の帳簿を作成せず、かつ、ダミー会社を介在させ仕入の水増をして利益を圧縮するなどの不正行為により、欠損金を計上したり所得の一部だけを申告し、その結果被告会社日本ペンションについて昭和六三年から平成二年に至る三事業年度分の正規の法人税額合計一億八二〇六万五八〇〇円のうち一億八〇二二万四一〇〇円を脱税し(ほ脱率九九パーセント)、被告会社松下興発について平成二年度分の正規の法人税額八〇一二万円の全額を脱税した事案である。両社の脱税額の合計は約二億六〇〇〇万円の高額にのぼり、ほ脱率もほぼ一〇〇パーセントであって、納税義務を無視する反社会性の強い犯行というほかなく、前記の動機、態様などを考慮すると、被告両会社及び被告人深沢の刑責は相当に重い。してみると、所論指摘の情状、すなわち顧問全利子が脱税を指導したこと、被告人深沢が事実を認めて反省し、被告両会社が脱税にかかる本税・重加算税等の国税分を原審継続中に完納し、地方税分も原判決以後引き続き分割納付を履行していることなどを斟酌しても、被告会社日本ペションを罰金四五〇〇万円に、被告会社松下ホームを罰金二〇〇〇万円に、被告人深沢を懲役二年四月(四年間執行猶予)に処した原判決の量刑が不当に重いとは考えられない。論旨はいずれも理由がない。

よって、刑訴法三九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 逢坂芳雄 裁判官 七沢章 裁判官 米山正明)

控訴趣意書

被告人 日本ペンション株式会社

株式会社 松下ホーム

深沢登喜雄

右の者に対する法人税法違反被告事件についての控訴の趣意は、左記のとおりである。

平成五年一二月六日

右弁護人 田中義信

大阪高等裁判所第三刑事部 御中

第一点 原判決は、明らかに量刑不当であるから、刑事訴訟法第三八一条により、その破棄を求める。

一 原判決は、脱税の態様、方法も、顧問税理士であった共犯者車谷の教示があったにせよ、販売目的の別荘地購入に際し、ダミー会社を介在させてダミー会社との間の架空の契約書を作成するなどして、仕入の水増しを行い、利益を圧縮する巧妙かつ悪質なものであり、脱税の動機についても、とくに斟酌すべき余地はない、と判示する。

しかし、被告会社両社並びに被告人深沢登喜雄にとって、車谷好彦税理士の存在は、脱税の態様、方法、動機についても多大な影響を与えるものであって、決して軽視されるべきではない。すなわち、被告人深沢においては、本件脱税の方法については、車谷税理士からの教示がなければ、到底思いつくものではなく、かつ被告人深沢は、車谷税理士に対し、もっと納税する必要があるのではないかと納税の意思を示しているにもかかわらず、車谷税理士は、「税金を払うくらいなら、私に払え」と言って、被告人深沢の意思を聞き入れず、逆に脱税方法を指導したのであり、被告人深沢においても、車谷税理士に反抗することもできず、指導されるままに本件脱税行為に及んだものである。車谷税理士の指導があり、かつ車谷税理士が付いているという心理状況が本件犯行にかりたてたものであり、そこに被告人深沢の人としての弱さがあり、ついつい脱税行為を重ねたのであり、いわば被害者的な要素を含んでいるものである。仮りに、車谷税理士が脱税行為を阻止し、適正な納税を行うよう指導していれば、本件犯行は発生しなかったと言っても過言ではない。これらの点は、十分同情に値するものと思料する。

二 次に、被告人深沢は、脱税の事実を素直に認め、自ら預金口座の通帳を持参する等して、積極的に捜査に協力する態度をとっている。およそ、脱税事犯は、裏付け捜査が難行し、被告人の自白によるところが多大であり、仮りに、被告人深沢が黙秘の態度をとっていたならば、本件起訴事実についての捜査は難行していたであろうことは十分に推認しうるところである。これに対し、被告人深沢は、脱税事実について素直に自供して、捜査資料についても積極的に認める態度をとり、これらの被告人深沢の態度は十分に斟酌されるべきである。

三 さらに、被告人らは、弁各号証のとおり、国税については、今日までに、総額三億六〇〇〇万円にのぼる本税、加算税、遅滞税もすべて完納している。

また、地方税の府・市民税についても、原判決時点でも、本税、加算税、遅滞税の総額約一億七〇〇〇万円余りのうち、約九二〇〇万円の支払いをしており、原判決以後においても、弁八三号証ないし弁九一号証の示す通り、金六、七二三、二〇〇円の支払いをしており、現在も誠実に支払いを続けている。

しかも、被告人らは、地方税の支払いを一刻も早期に完納するために、現在所有不動産の売却を積極的に進めているところである。

被告人らの納税態度については、弁六八号証の示す通り、税務署においても誠意が認められると評価されている。

とかく、脱税事犯においては、犯人は財産を隠匿してしまい、納税を履行する者が少ないなかで、被告人らは積極的かつ短時間で、約二億六〇〇〇万円の脱税に対し、何と約四億五〇〇〇万円以上の税金を納めており、これらの事実は大いに評価されるべきである。

そして、被告人らは、本税に加算税、遅滞税を付加されて、本税の倍額以上の税の納税を余儀なくされており、十分な経済的制裁を受けていると言わなければならない。なのに、原判決は、被告人日本ペンション株式会社に罰金四五〇〇万円、被告人株式会社松下ホームに罰金二〇〇〇万円を科しており、これは多大な懲罰を科していると言うべきである。

さらに、被告人深沢の反省の態度を鑑みるとき、被告人深沢においても、執行猶予は付されているものの、懲役二年四月の判決は、余りにも重刑であると思する。

四 原判決は、前述のような被告人らに有利な事情は看過ごしており、この点で量刑不当のそしりを免れず、原判決は破棄されるべきである。

以上

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